大判例

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東京高等裁判所 昭和41年(う)1718号 判決

被告人 藤原二郎

〔抄 録〕

自白調書の任意性等を主張する論旨について

所論は、本件は、被告人の義兄藤盛正善の臆測による誣言が司法警察職員の先入主となつて捜査が進められ、被告人は、警察に勾留されたうえ、長期間、昼夜にわたる取調を受け、具体的誘導尋問と脅迫、数名の警察官が取り巻き卓を叩いての強制、あるいは甘言等により、これに怖れ、あるいは迎合して虚偽の自白をなしたものであるから、被告人の自白調書には任意性がなく、その他の参考人、原審証人も、警察の先入主と気勢に恐れ、これに迎合し、遠慮して真相の供述を避けたものであつて信用できないと主張するので按ずるに、記録によつて窺われる本件捜査の経過、被告人の供述の変遷の態様、本件捜査にあたつた警察官である原審証人乗松正博、森田政司、倉田卓男、鈴木政雄に対する各尋問調書、録音テープによれば、本件家屋(原判示春野町石切五一五番地所在藤原信太郎所有名義の住家、工場等をいう。以下同じ。)の火災は、夜半、空家からの出火であつたため、警察は、火災直後から不審を懐き、放火の疑いをもつて捜査を開始し、火災前日までその家に居た被告人についても、在宅のまま、種々事情を尋ねていたが、被告人は、全く犯行を否認し、後に本件火災現場から発見された二四時間用タイムスイツチ、電気コンロについても、これを持ちこんだことはない等、今日においては、被告人にも争いのない事実さえ否認し、一方、ひそかに右タイムスイツチ、電気コンロと同種同型の物を新たに購入して自宅に置く等の疑装工作をなしていたので捜査は難行したこと、しかし警察は、火災現場から発見したタイムスイツチ、電気コンロについて、製造元、製造時期、販売経路等を入念に捜査して被告人の疑装工作を看破する端緒をつかむ等、長期間にわたる地道な捜査によつて情況証拠を積み重ね、犯行後七か月余を経過した昭和四〇年九月三日、相当の嫌疑をもつて被告人を逮捕したものであることが認められ、本件捜査が、所論の如く藤盛正善の誣言によるものとは認められない。また、被告人の自白調書が作成されたのは、右勾留中であることは所論のとおりであり、すでに相当の資料を蒐集把握していた捜査当局としても、逮捕後なおタイムスイツチ等の持込みさえ否認している被告人に対し、その供述を易々諾々として聴取するに止まらず、他の証拠との矛盾等について、ある程度の追及的質問もあつたであろうことは推量するに難くはないが、しかし、所論の如く、数名で取り囲み卓を叩いて自白を強要したとか、その他、被告人が原審あるいは当審において供述するような違法な取調の事実は認められず、所論の如く任意性を疑わせるような誘導尋問、強制、脅迫、甘言等による取調であつたとは認められない。その他、原審において取り調べた各証拠が任意性を欠くものであるとの所論は、これを窺うに足る資料は全くなく、原審が証拠能力のない証拠を取り調べ、これを採証の用に供した等、原審の訴訟手続の違背を論難する論旨は、理由がない

(三宅 江碕 金)

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